小間 満文

 

ゆったりと煙が流れるのを眺めていると、雨音が大きく聞こえる。

 雨が近付くと頭が痛むという話を聞いたことがあるが、私の場合、無性に煙草が吸いたくなる。普段は気にも留めない煙草を求め、深夜だというのにコンビニに向かったことも少なくない。今夜もそうだった。終電ぎりぎりまで働いて、ようやっと休めるとベッドに身体を埋めた時、中毒患者のように、頭が煙草を求めた。幸い、近くにコンビニがある。それでも、どうせなら仕事帰りに買ってきたかったと不満を零しながら部屋の鍵を取った。

 空気が湿っていた。直に雨が降る。気候を当てるのは得意なのだ。雪だってぴたりと当てた。直に雨が降る。

 コンビニにある煙草は苦い。甘ったるい匂いの煙草が好きなのだが、滅多に見ないので苦い煙草で手を打つ。やる気のなさそうなお兄さんから煙草を受け取り、帰路につく。煙草を吸うのはうちのベランダと決めている。とくんと一つ、胸が鳴る

 引き出しからジッポを取り出し、ベランダへと向かう。小さな雨音が聞こえてくる。湿気がきになるので一本だけ抜き取って外に出る。心が躍る。震える手を必死に抑え、煙草に火をつけた。

 ゆったりと煙が流れるのを眺めていると、雨音が大きく聞こえる。

 私は、このベランダから星空を見たことがない。私がベランダに出るのは煙草を吸う時に限られる。煙草を吸う時は雨が降っているのだ、星空が見えるわけがない。それでも、空を見上げてしまう。見えるのは、自分の吐いた煙だけだというのに。

 いつだったか、星が見えた気がした。その時も煙草を吸っていた。深呼吸するように煙を吐き出した時、煙の向こうに何かが光ったのだ。星に見えた。その星が、どんな光より愛おしく思えたから、探した。まだ長い煙草をもみ消し、身を乗り出して目を凝らした。

無いのだ。どこにも。

あの星はどこへ行ってしまったのだ。私はさめざめと泣いた。

それからというもの、私は雨夜を見上げるようになる。

ゆったりと煙が流れるのを眺めていると、雨音が大きく聞こえる。

短くなった煙草を灰皿に押し付ける。今日も見られなかった。涙が頬を伝う。私という生き物は、こんなくだらないことで泣けるものなのだろうか。部屋に戻る。

冷たい光の下で、今日も寝支度をするのだ。