僕は雨粒に同情する -self loathing-

今井 優

 

場面緘黙の僕は夜になるとおしゃべりになる。自分の部屋篭って、好きな音楽を聞いて、語り手のように今日の出来事を面白可笑しく口ずさんでいく。何を話しても言葉が煙のように揺蕩っては消えていく。誰も傷つかないこの時間が僕は好きだ。

 

独り言に夢中になっていたのか、空が赤くなると同時に閉めるはずの雨戸が開けっ放しになっていたことに気付かずにいた。外は雨だった。雨の日に見える景色はまるで雨に溶けてしまったかのように仄かにあったかく滲んでいる。サーと音を立てて落ちていく雨の音。パチパチと弾ける雨の音。雨粒が窓硝子に跳ねてぶつかり、小さな玉を作っていく。それはまるで窓硝子の向こうである僕の部屋に入りたくて散った命のようで、見ていて気分が良いものではなかった。その玉も大きくなると重さに耐えられなくなって窓の外へと落ちていく。僕は窓の外へと落ちてしまった雨粒が他人事とは思えず、窓硝子に映る自分の顔に語りかけた。

 

「この時間が終わらなければいいのに」

 

僕自身も分かってはいるのだ。明けない夜と止まない雨がないように、僕を守ってくれるものはずっといてくれるわけではない。僕の代わりに話してくれる母親も、唯一喋れるこの空間も永遠ではないのだ。

 

「分かってはいるんだけどね」

 

雨戸を閉める。雨の音が少し遠ざかる。だが、何を話しても言葉が霞のように見たくないものまで見えるようにしてしまう。不安が絡んだ痰のように吐き出せないこの時間が僕は嫌いだ。